研究概要 |
住血吸虫など重要な寄生虫に対する駆虫薬の作用機序に,宿主の免疫機構が参加し,より効果的に殺されることが明らかになっている。したがって,T,B細胞を欠如するSCIDマウスでは,駆虫薬はより直接的に虫体に作用すると考えられ,そのような特殊な条件下での薬剤耐性寄生虫株の作出を検討した。得られた結果は以下のとおりである。1.Schistosomamansoni : SCIDマウスは感染に対して,自然抵抗性を有していたが,プラジカンテルでは殺虫されず,駆虫薬の効果は,宿主の免疫状態に影響された。2.Echinococcusmultilocularis : メベンダゾールに対する耐性株は出現しなかったが,SCIDマウスを用いた皮下多包虫モデルを作出し,駆虫効果判定に有効であることが示唆された。3.Trichinellabritovi : メベンダゾールに対する耐性株が出現したが,その性状は継続しなかった。4.Trypanosoma spp. : T cruzi感染SCIDマウスモデルは確立できたが,T.grosi感染 SCIDが成立せず,スナネズミで感染が成立したことから,スナネズミのT細胞表面抗原を認識するモノクローナル抗体を作製し,これを用いて,感染抵抗性のT細胞依存性が明らかになった。5.Intermediate filaments(IFs) : 宿主と寄生虫のIFsに共通して反応するモノクローナル抗体を作製し,それを用いて,メベンタゾールで駆虫したT.britovi感染ラット血中に,このIFsに対する自己抗体の上昇が明らかになった。6.免疫抑制酸性蛋白(IAP) : 各種寄生虫感染SCIDマウスにおいても,IAPの産生が明らかになり,薬剤抵抗性の発現にこれが関与する可能性が示唆された。 今回,SCIDマウスをVehicleとして,駆虫薬が直接的に作用する条件下で得られた種々の感染動態は,薬剤耐性機序の解析や,ひいては薬剤耐性の発現を抑えた駆虫薬の開発を検討できる動物モデルとして有用であることが明らかになった。
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