研究概要 |
環境汚染物質の毒性に対する防御因子として,いくつかの蛋白質が既に同定されているが,これら既知の因子よりもさらに強力な作用を有する未知の防御因子が存在する可能性が強く示唆されている。そこで,環境汚染物質の一つとしてメチル水銀を選び,酵母を利用した独創的な方法を用いてメチル水銀毒性に対するヒト防御遺伝子の検索を行った。ヒト由来癌細胞であるHeLa細胞のcDNA libraryを酵母にtransfectしたところ,プラスミドの導入によってメチル水銀耐性を獲得した酵母クローンが約50種得られた。これらのクローンの中から特に高いメチル水銀耐性を示す3種のクローンを選び,メチル水銀耐性と導入プラスミドの関係を検討したところ,これらのクローンは何れもプラスミドの除去によってメチル水銀耐性を失った。なお,これらのクローンは塩化第二水銀やカドミウムに対しては耐性を示さなかった。これらのクローンからプラスミドを抽出し,親酵母に再導入したところこれらの酵母は効率良くメチル水銀耐性を獲得した。この結果から,今回抽出したプラスミド中にメチル水銀耐性に関与するcDNAが含まれていると考えられる。なお,これらのプラスミドは酵母のみならず大腸菌にもメチル水銀耐性を与えたことから,今回得られたcDNAの産物がヒト細胞においてもメチル水銀耐性因子として機能している可能性は高い。今後,これらcDNAの産物がヒト細胞においてもメチル水銀耐性因子として機能しているか否かを検討するとともに,その塩基配列を決定することによって遺伝子産物を同定する予定である。
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