研究概要 |
これまでに環境汚染物質の毒性に対する防御因子として,いくつかの蛋白質が既に同定されているが,これら既知の因子よりもさらに強力な作用を有する未知の防御因子が存在する可能性が強く示唆されている。そこで,環境汚染物質の一つとしてメチル水銀を選び,酵母を利用した独創的な方法を用いてメチル水銀毒性に対する防御遺伝子の検索を行った。昨年度に既にメチル水銀耐性遺伝子が挿入されていると思われるプラスミドを3種類単離したので,これらについて検討を続けたところ,何らかの理由によりこれらプラスミドから挿入遺伝子を切断することが出来なかった。そこでこれとは別に,酵母ゲノムライブラリーを挿入したプラスミドを酢酸リチウム法により出芽酵母に導入して酵母にメチル水銀耐性を与えるプラスミドを選別した。その結果,10個のクローンが得られたので,これらクローンからプラスミドを回収し、それぞれを親株に再導入したところ、そのうち2種類のプラスミドを導入した酵母のほとんど全てがメチル水銀耐性を示した。この2種のプラスミドのうち、より強い耐性を与えたプラスミドについて解析を進めたところ、このプラスミド中には、全長9.2kbのゲノムDNAフラグメントが含まれており、その中の3.7kbEcoRIフラグメントがメチル水銀耐性に関与することが判明した。この3.7kbフラグメント中には、完全なORF(Open Reading Frame)が1つ存在しており、716アミノ酸からなる蛋白質をコードしていた。この酵母から単離されたメチル水銀耐性遺伝子と相同性の高い遺伝子がヒトにも存在することから,この遺伝子の産物は酵母のみならず哺乳動物においてもメチル水銀に対する耐性因子として作用するものと思われる。今後は、この遺伝子について詳細な検討を加えると共に,さらに別の新しい耐性因子の検索も並行して行う予定である。
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