環境汚染物質の拡散と毒性に与える腐植物質の影響評価と環境浄化剤への活用

1995 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07558205
• 研究種目: 試験研究(B)
• 研究機関: 北海道大学
• 研究代表者: 中村 博 北海道大学, 大学院・地球環境科学研究科, 教授 (00117194)
• 研究分担者: 福嶋 正巳 エネルギー総合工学研究所, 研究員 ; 田中 俊逸 北海道大学, 大学院・地球環境科学研究科, 助教授 (30142194) ; 長谷部 清 北海道大学, 大学院・地球環境科学研究科, 教授 (70000859)
• キーワード: フミン酸 / フルボ酸 / 6価クロム / 多環芳香族化合物 / 腐植物質 / 還元無毒化 / 環境汚染物質 / ピレン

研究概要

環境汚染物質の拡散と毒性に与える腐植物質の影響を調べるために、平成7年度は主に以下の事項について検討し、幾つかの新しい知見を得ることができた。
(1)新篠津村をはじめ北海道内の数地点より泥炭のサンプリングを行い、これから腐植物質を抽出し、さらにフミン酸とフルボ酸とに分けて精製を行った。精製した腐植物質について元素分析、金属錯化容量、各種分光学的測定等によりキャラクタリゼーションを行った。その結果、腐植物質の種々な性質は採取地点によりかなり異なることが明らかとなった。
(2)腐植物質と3価のクロムとの錯形成挙動について調べ、腐植物質のうちフミン酸はかなり低いpHからクロムと錯形成することが判明した。また、錯形成の平衡に達するには30時間以上かかることが分かった。さらにこの時の条件錯形成定数、反応速度定数を求めることができた。
(3)腐植物質は環境汚染物質の一つである6価クロムと反応し、還元無毒化することを明らかにできた。この還元反応は溶液のpHに依存し、実際の環境中では反応に相当の時間がかかることが判明した。また、3価のクロムはある条件下で6価のクロムに酸化されるが、腐植物質との錯形成がクロムの酸化過程にも影響し、環境中の6価クロムの生成を抑制している可能性があることを明らかにできた。
(4)次に有害有機物である多環芳香族化合物と腐植物質との相互作用について調べた。その結果、多環芳香族化合物は腐植物質と結合し、水に対する溶解度を増加させることが分かった。また、この時のピレンの腐植物質への分配係数を求めることができた。この値はSDSなどの界面活性剤と比較してもかなり大きな値であり、腐植物質が環境中の有害有機物の拡散に大きな影響を与えていることが判明した。ベンゾピレンなどの多環芳香族化合物は実際の環境中では煤煙などの微粒子表面に吸着した状態で存在するが、このような固体微粒子を含む系での腐植物質と多環芳香族化合物との結合を調べるために、活性炭に吸着させたピレンを用いて検討した。その結果、このような系においても腐植物質がピレンの水への溶解を増大させることが判明した。また、この場合のピレンの溶出挙動を説明するためには、フミン酸の活性炭への吸着を考慮しなければならないことが明らかになった。

研究成果

• [文献書誌] M.Fukushima,: "Interpretation of acid-base equilibrium of humic acid by continuous pK distribution model and electroatatic model," Anal.Chim.Acta,. 302. 365-373 (1995)
• [文献書誌] M.Fukushima,: "Chromium(III) binding abilities of humic acids," Anal.Chim.Acta,. 317. 195-206 (1995)
• [文献書誌] M.Nagase: "Determination of tributyltin and triphenyltin compounds in hair and fish using a hydrolysis technique and gas chromatography with flame photometric detection" Analyst,. 120. 1923-1926 (1995)
• [文献書誌] R.Tahara: "Synthesis and complexing behavior of a new fluorescent ligand using interaction between two substituents" Chem.Lett.,. 753-754 (1995)
• [文献書誌] M.Fukushima,: "Acid-base characterization of molecular weight fractionated humic acid," Talanta,. (in press.). (1996)
• [文献書誌] M.Fukushima,: "Copper(II) binding abilities of molecular weight fractionated humic acids and their mixtures," Anal.Chim.Acta,. (in press). (1996)