研究概要 |
アシアロ糖蛋白質のモデルとして我々が設計・開発してきたP.V.L.Aはその両親媒性の分子構造ゆえに水中にて安定な高分子ミセルを形成する.その水相へ露出した糖鎖(β-ガラクトース)の肝細胞認識機能を有効に発揮できれば各種遺伝子,アンチセンスDNA,リボザイム等々を肝臓,特に肝実質細胞に選択的に到達させ,遺伝子治療や細胞治療を施すことが可能となるものと推測した.実際に蛍光プローブや放射性ヨウ素で標識したPVLAをラット尾静脈により注入してみると,1時間以内に肝臓組織に60〜70%もの量が到達し,しかも肝実質細胞に12倍以上の選択性(対非実質細胞)で取り込まれていくことが明らかになった.このようにPVLA高分子ミセルは通常迎撃されやすい網内系組織(RES)をかいくぐり(RES回避),高い効率で標的となる肝細胞にたどり着くことが確認された.ハイブリッド人工肝臓用コーディング材料の場合と同じように,PVLAはたいへんよいアシロア糖蛋白質モデルになっていることがわかる.しかも,分子ミサイルキャリアーとしてはたいへん都合のよいことには,多くの医薬や蛍光プローブのように疎水性が高い化合物が共有結合させることなしPVLA水溶液にただ混合攪拌するだけでPVLAミセルの疎水性コアドメイン内に包装されることも判明した.PVLAのようなバイオミメティックなポリマーリガンド設計の利点は,合成化学的に新たな機能を付加することが容易となることである.インテグリンファミリーに認識されるRGDS(アルギニン・グリシン・アスパラギン酸・セリン)ペプチドを導入したスチレン誘導体と,PVLAのモノマーVLA(ラクトース導入スチレン誘導体)を共重合し,得られたポリマーをコートしたディッシュを用いて肝細胞の接着アッセイと接着阻害アッセイを行ったところ,この共重合体が両方の肝細胞膜レセプターに同時に認識されて細胞接着を誘導しているという興味深い結果が得られた.
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