オリゴマータンパク質の遺伝子組み替え体の結晶化には、いくつかの遺伝子を同時に、かつ大量にホスト細胞で発現させる必要がある。本研究では、発現系として、細胞性粘菌Dictyostelium discoideumを用いた実験系を立ち上げることを目的とした。複数の遺伝子を同時に細胞性粘菌内で発現させるために、まず、選択マーカーの作成をおこなった。既存のネオマイシン耐性遺伝子の他には、これまで細胞性粘菌で効率よく使える耐性遺伝子マーカーがなかったので、Blasticidin耐性遺伝子が細胞性粘菌でも使えるように、細胞性粘菌のアクチンプロモーター、アクチンターミネーターでBlasticidin遺伝子をはさみ、これを粘菌細胞内で駆動するようにした。こうして少なくとも二つの耐性選択マーカーが使えるような系を確立した。こうした選択マーカーと多コピープラスミドを併用して、ミオシン重鎖と2本の軽鎖の同時発現をおこなった。この結果、3種類のポリペプチド鎖が多量に発現し、ミオシン頭部ドメインの大量発現が成功した。現在、この系を用いて、ミオシン頭部ドメインの結晶化を試みている。さらに、こうして選択マーカーの幅が広がったことで、細胞性粘菌をもちいたさまざまな細胞生物学的研究、とくに細胞運動に関する研究が可能になるという副産物があった。
|