インサーショナル・ミュータジェネシスは、近年のフォワード・ジェネティクスにおいて頻用される手法であるが、これをマウスに応用することにより、有効で系統的な変異マウスの樹立システムを開発するため、新たなジーントラップ・ベクターを開発し、それを用いて実際に変異マウスの作製を試みることが本研究の目的である。我々は、従来よりスプライシング・アクセプター配列を有するレトロウイルス・ベクターを用いて、マウスのインサーショナル・ミュータジェネシスを試みているが、本研究において、新たに2種類のジーントラップ型のレトロウイルス・ベクターを開発することに成功した。第1のタイプは、3′LTR内にloxP配列を持つトラップ・ベクターROSA-βgeo-loxPである。このベクターにより導入される遺伝子変異は、Cre組換え酵素を発現させることにより解消することが可能であることが確認され、リバーシブルなジーントリップ・ベクターが完成した。第2のタイプは選択用遺伝子のβgeoの5′端にIRES(internal ribosome entry sequence)を付加したトラップ・ベクターのROSA-IRES-βgeoであり、これを用いることにより染色体上の遺伝子の3′側のイントロン内への挿入変異形成が生じ、よりhypomorphicな変異体の単離が可能となった。我々は、これらのベクターを用いて20ラインを超す変異マウスを樹立し、その解析を行っているが、変異が導入された遺伝子の発現パターンのX-gal染色による解析等の結果も、これらのベクターを用いたインサーショナル・ミュータジェネシスが、効率の良い変異マウスの樹立に有効な手段であることを示しており、実際に胎生期致死を示す変異マウスが得られている。
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