本研究においてはスキルス胃癌の原因の解明、及びその治療の可能性を探るためのモデルマウスの作成を目的としている。この目的のため、スキルス胃癌において高頻度で欠失し、原因遺伝子の一つである可能性の高いαカテニンのノックアウトマウスを作成し、このマウスでの発癌実験を行うことを試みる。本年度はαカテニンのノックアウトを1)マウスES細胞TT2からαカテニン遺伝子の単離、2)ターゲッティングベクターの作成、3)positive-negative selectionによる相同組み替え細胞の単離、4)キメラマウスの作成、の順で進めた。この結果、αカテニン遺伝子の一方を欠失した細胞の作成、及びキメラマウスを単離する事ができた。当初の計画では次にこのキメラマウスからヘテロマウスを作成し発がん実験に進む予定であった。しかしながら得られたキメラマウスからヘテロマウスを作成することができなかった。 このような解析を進める過程で、癌抑制遺伝子APCに変異を持つES細胞がキメラマウスにおいても腫瘍を形成する可能性があることが明らかになった。さらに、APC遺伝子座とαカテニン遺伝子座が隣接していることが明らかになり、APC変異個体から得られる腫瘍ではαカテニン遺伝子の一方が高頻度で欠失する可能性が示された。このため方針をAPCに変異を持つES細胞でのαカテニン遺伝子のノックアウトに変更した。現在APC変異ES細胞からαカテニン遺伝子の単離に成功し、ターゲッティングベクターの作成を試みているところである。
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