我々は神経細胞の特異性ならびに多様性を規定する分子機構について解析し、そこから得られる知見を神経変性疾患の治療に役立てようと考えた。第一段階としてDIAドパミン受容体と神経特異的転写因子であるPOU遺伝子ファミリーに注目した。DIA染色体遺伝子の上流域をCATレポータープラスミドに組み込み、様々な欠失クローンを作製してCATアッセイに用いた。この際POU遺伝子群の発現ベクターを共にトランスフェクションして転写活性への影響を調べた。この結果、第一イントロン内にPOUファミリーに属するBrn-4に反応して転写活性を上昇させるエンハンサーが存在することが明らかになった。このシス領域内にはPOU転写因子が結合するためのコンセンサス配列が2ヵ所あり、グルシフト法によって実際Brn-4が結合することが示された。さらに生体内においてBrn-4がDIA受容体の転写調節に関わるかを推測するために、インサイトゥーハイブリダイゼーション法で線状体神経細胞におけるBrn-4とDIAの発現を見たところ、この両者が同じ種類の神経細胞に発現していることが明らかになった。これらの結果から、Brn-4は線条体DIA発現神経細胞において、DIA遺伝子発現に関与していると考えられた。また、この過程で、同一のシス領域に対し、POUの他のメンバーは異なる作用をもつこと、さらにより上流にはDIAの発現を抑制するサイレンサーが存在することが示唆された。今後はこれらの知見を用いて、DIA遺伝子発現を神経細胞において人為的にコントロールすることを目指したい。
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