胚幹(ES)細胞を利用し作製される標的遺伝子欠損動物は、ヒト疾患の病態機構を分子レベルにて考察することを可能とした非常に有用なモデル動物である。そこで我々は、ラットにおけるES細胞の樹立を試みた。 1)ラットES様細胞は、培養用フィーダー細胞にSDラットの胎児線維芽細胞を用い、ACIラット、ACIとWistarの交雑ラットおよびPVGラットより採材した胚盤胞をフィーダー細胞上にてIGF-IIやLIFを併用し培養した。結果、マウスES細胞と同様の形態をなしたコロ-ニ-を各系統から数種類得た。2)ES様細胞のin vivoにおける多分化能力を検討するため、マイクロインジェクション方法および共培養凝集方法にてキメララットの作製を行った。(a)‐‐マイクロインジェクッション方法‐‐Wistar-Imamichiラットの8細胞期および胚盤胞期の胚をホスト胚として用い、全ての種類のES様細胞をそれぞれ囲卵腔および胚盤胞腔に導入しキメラ胚を作製した。その後、偽妊娠ラットに移植したがキメララットは得られなかった。(b)‐‐共培養凝集方法‐‐本研究のひとつとして多様なES細胞においてキメラ動物を作製する方法として有用であることが評価された(Lab.Anim.Sci.1995 45:601)共培養凝集方法を利用し、透明帯を欠くWistar-Imamichiラット8細胞期とES様細胞とを共培養しキメラ胚を作製した。その後、胚盤胞まで発達した胚を偽妊娠動物に移植し、新生児を得たが、キメラ個体は観察されなかった。 これらのことより、ラットES細胞樹立には更にIGF-IIやLIF以外に新たな追加因子が必要であることが示唆された。
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