研究概要 |
マウス胚幹(ES)細胞の樹立、そして、その維持において白血病抑制因子(leukemia inhibiting factor,LIF)がES 細胞特異的な増殖分化抑制因子として重要であることは知られている。しかしながら、ラットES細胞樹立の報告はなく、ラット胚盤胞内部細胞塊より効率よくES細胞を樹立するにはLIF以外に追加しなくてはならない他の因子が存在するのではないかと我々は推察した。インシュリン様成長因子(insulin-like growth factor,IGF-II)は初期発生に関連することが多くの解析より報告されてきている。また我々は、既にIGF-IIを多く含むバッファロ・ラット肝臓由来の細胞分画が、in vitroにおいて分化能を示すES様細胞の樹立に効果的であることを明らかにしている。そこでIGF-IIを用い樹立したES様細胞の個体レベルにおける多分化能力を検討した。 20%牛胎児血清、5000units/mlのマウスLIFおよび100ng/mlのラットIGF-IIを含むDME緩衝液を用い、異なる二つの系統のラット胚盤胞内部細胞塊より7つのES様細胞株が樹立された。個体レベルにおける多分化能の検討のため、Wistar-Imamichiから採取した宿主胚を用い共培養凝集法およびマイクロインジェクション法によりキメラ胚を作製した。総計653個のキメラ胚を偽妊娠ラットへ移植し、合計134匹の新生児を得た。しかしながら、得られた産児の体毛色および眼球色は全て宿主胚として用いたWistar-Imamichiに由来するアルビノ型であり、ES様細胞に由来する有色型を示すキメララットは得られなかった。従って、LIFおよびIGF-IIを併用し樹立したES様細胞は、in vivoにおける多分化能力を保有していないことが明らかとなった。これらのことより、ラットES細胞の確立には、LIFやIGF-IIの他、追加的な因子がさらに必要であることが示唆された。
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