研究概要 |
主として,動脈硬化症および高脂血症を有する患者の血液と血管壁について分析を行い以下の結果を得た. 1.血液の自己蛍光分析 (1)波長条件と濃度の検討 血漿の自己蛍光の検討を行うのに先ず血漿の蛍光の波長条件と濃度依存性を検討した.血漿で観察される主な蛍光は a)励起波長280nm蛍光波長340nm, b)励起360nm蛍光450〜470nm, c)励起440nm蛍光520nmである.これらの条件で濃度依存性が得られる範囲はそれぞれ a)10万〜1000倍希釈, b)1000〜10倍希釈, c)100〜10倍希釈であった. (2)酸化変性による蛍光の変化 酸素を24時間付加した血漿と,容器内を窒素で置換し密閉した血漿の蛍光を比較した.酸素付加により励起波長320〜340nm,蛍光波長400〜440nmの蛍光強度の増加が見られ,この励起条件で蛍光波長のピークが短波長側にシフトした.100倍に希釈した血漿を340nmで励起すると,酸素付加しない血漿の蛍光ピークの平均は453nm,付加したものの平均は447nmであった.蛍光測定とともに過酸化脂質の測定を行った.過酸化脂質濃度が正常と思われる血漿は酸素付加により増加したが,極端に高い場合(10nmol/ml以上)には減少した。過酸化脂質濃度が極端に高い場合,酸素付加により過酸化脂質が減少するのか測定の妨害物質が生じているのかは現在のところ不明である.しかし,血漿の酸化変性による変化の蛍光測定による検知は可能であると考えられる. 2.血管壁の自己蛍光分析 ヒト大動脈瘤の手術の際に動脈硬化壁の一部を採取し,自己蛍光を観察・分析した.U励起(励起波長330-385nm)では動脈硬化を生じていない部位の蛍光ピークは主に460〜480nmの間に分布するのに対し,動脈硬化を生じたものは440〜520nmに分布し平均のピーク波長は長波長側にシフトし,ピーク強度は弱くなる傾向を示した.BV励起(400-440nm)ではピークは励起光と重なり観測されなかったが,波形の変化はU励起と同様の傾向を示した.蛍光顕微鏡で観察すると,肉眼で病変が観察される部位には正常部には見られないような直径数10μm程度の白,黄色,茶色の物質が観察された.
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