研究概要 |
モルモットに普通食あるいはコレステロールを付加した食餌を与え,飼育した.コレステロールを付加した場合は,血漿から強い自己蛍光が出現しているのが観察された.コレステロールの付加期間が長いほど蛍光強度は強く,かつピーク波長は短い方にシフトした.このような基礎的データに基づき,ヒト血漿を用いて自己蛍光観察を行うとともに,健常者と動脈硬化性の疾患を有する患者について,その蛍光波長の変化をみた.モルモットの血液の場合と同様に,波長340nmで励起した場合,健常者に比べ患者の例において波長が全体的に短波長側にシフトしていた. 自己蛍光波長の変化の原因を探るため,一つの要因として酸化を検討した.健常なヒトの血漿に72時間酸素を付加したところ,患者の血液で観察された自己蛍光の波長変化と同様の傾向がみられた.分析の結果,モルモットの動脈硬化モデルおよびヒト患者で観察された自己蛍光の変化は脂質の酸化によることが示唆された. 血液中の脂質のどの成分が自己蛍光強度の変化に関与しているかを調べるため,ヒト血漿からリポ蛋白質を段階的超遠心法により分離し,カイロミクロン,超低比重リポ蛋白質(VLDL),低比重リポ蛋白質(LDL),高比重リポ蛋白質(HDL),リポ蛋白質フリーの分画を得た.これら各分画に対して酸化による蛍光波形の変化を観察した.その結果,LDL, HDLの分画の蛍光強度が著しく増加した.一方,リポ蛋白質フリーの分画の蛍光強度の絶対値は大きかったが,蛍光波長は変化しなかった. 以上の実験より,動脈硬化症患者の血漿の自己蛍光は,血漿を酸化変性させた場合と同じ特徴を持つことがわかり,酸化LDLの濃度だけでなく,LDLとHDLを含めた血漿の酸化度を測定することは,動脈硬化の初期診断方法として有効であると考えられ,血漿の自己蛍光測定はこのような診断方法の一候補と考えられた.
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