研究概要 |
研究目的:平成7年度の研究により、簡単なアルカリ表面化学処理によりチタン及びその合金に生体活性を付与できることが明らかになった。本年度は、NaOH水溶液処理及びその後の加熱処理の条件が、チタン金属表面でのアパタイト形成に与える影響を調べた。 研究成果:純チタン金属の10×10×1mm^3の大きさの板状試料を、1-10Mの濃度、40-60℃の温度のNaOH水溶液に24時間浸漬した。これらの試料を、ヒトの体液とほぼ等しいイオン濃度を有する36.5℃の擬似体液に浸漬すると、いずれの試料についてもその表面に緻密で均質な骨類似アパタイト層が形成された。しかし、アパタイト形成に要する擬似体液中への浸漬期間は、NaOHの濃度が1,2,5M以上と高くなるにつれ1週間,3日,1日と短くなった。これは、NaOH水溶液の濃度が高いほど、ナトリウムイオンを多量に含むチタニアヒドロゲルが形成され、これが多量のナトリウムイオンを溶出し、擬似体液のアパタイトに対する過飽和度を急速に高めるためと考えられた。しかし、表面のゲル層は、外力により用意に剥離した。そこで、5MのNaOH水溶液に60℃で24時間浸漬したチタン金属を400-800℃で1時間加熱処理した。その結果、加熱処理温度が600℃の時に表面層が安定化した。加熱処理した試料を、36.5℃の擬似体液に浸漬すると、いずれの試料もその表面に緻密で均質な骨類似アパタイト層を形成したが、アパタイト形成に要する擬似体液中への浸漬期間は、加熱処理温度が700℃以上になると長くなった。これは、金属表面に生成したアモルファスのチタン酸ナトリウムが結晶化し、擬似体液中へのナトリウムイオンの溶出及びpH上昇の速度が小さくなった結果、金属表面でアパタイトの核形成を誘起するチタニアヒドロゲルの形成速度ならびに擬似体液のアパタイトに対する過飽和度の増加速度が小さくなったためと考えられた。
|