科研費採択に先立つ平成6年度刊の「アリストテレスの理論的理性論(上)」(千葉大学文学部紀要)に引き続き、今年度は「アリストテレス『形而上学』は21世紀に生き残れるか?」(哲学雑誌)、また「アリストテレスの快楽論」(千葉大学文学部紀要)において、アリストテレスの「心の哲学」におけるエネルゲイア概念、および論理学において批判されつつ依然として大きな位置を占める「快楽」に関する基本問題の一部についての検討がなされた。さらに「医学における「先端技術」と「治療」の間」(千葉大学普遍科目「科学技術の発達と現代社会II」企画運営委員会編「生命・環境・科学技術倫理研究資料集(続編)」)、また近刊『現代社会と倫理』(晃洋書房)所収の「経済と倫理」において、重要性と緊急性が叫ばれている現代の倫理学の問題の一部を検討した。 前者からは、歴史的な過程とは無縁であるはずのエネルゲイア概念の分析が、アリストテレスの公式の表明にもかかわらず、むしろ歴史的な過程を考慮せざるをえないヘクシス概念の分析に依存してしまうこと、その中で、しばしば現代遅れと思われている「目的論」が広い意味での「進化論」的枠組みの中で現代においても検討に値するものであることが明らかとなり、後者においては、倫理を、歴史を通じて成立する時代的な「環境」の中で、必ずしも意図せざる結果として成立し、それ故に、すぐれて歴史的な問題として位置づけることを試みた。 このような理解が、すべてを歴史と社会に相対化する「相対主義」とは異なるものであることを明らかにすること、つまり、「本質」としてのエネルゲイアを語ることの意義を明らかにすることが、次の課題である。
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