8年度は、7年度のアリストテレスのテキストを主とした「心の哲学」の検討を背景に、倫理学への展開をテキスト(主に「ニコマコス倫理学」「政治学」)に即して検討すると同時に、現代行為論・倫理学の問題のサーベイを行った。成果は、7年度末に刊行した「アリストテレスの快楽論」(千葉大学文学部紀要)、今年度刊行予定の「アリストテレスの友愛論」において、アリストテレスの「心の哲学」および倫理学の基本問題の一部について纏められ、また「経済と論理」(「現代世界と倫理」(晃洋書房)所収)、「専門職の「倫理網領」と制裁」(「電気情報通信学会技術報告」FACE96)において、現代の倫理学の問題の広がりと関連性について報告した。前者の検討からは、エネルゲイア概念の分析が、エネルゲイアの先行性というアリストテレスの公式の表面にもかかわらず、むしろヘクシス概念の分析に依存してしまうことを確認し、ヘクシス概念の解明のための予備作業として、否定的に論じられることの多い目的論の位置を明らかにする作業に取りかかっている。アリストテレスの目的論は歴史性を無視した本質主義的完成主義としてではなく「折りたたまれた進化」論として再構成できるのではないかという見通しを持っている。「アリストテレスの目的論」として纏められる予定である。後者のサーベイからは、倫理を、歴史を通じて成立する。必ずしも意図せざる結果として位置づけるという、アリストテレスのヘクシス概念の転用という狙いの有効性を確認した。
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