本研究の目的は、アリストテレスのエネルゲイア概念が行為の理論において占めている位置を明らかにし、あわせて現代におけるその意義を検討することであった。 平成7年度には、予備的な作業として現代における行為論の問題点をサーベイして、行為の説明において欲求概念をどのように理解するかが依然として重要な未決の問題であることを確認すると共に、アリストテレスにおいては、エネルゲイア概念の分析が、その公式の表明にも関わらず、ヘクシス概念の分析に依存してしまうことを明らかにし、その一部を「アリストテレス『形而上学』は21世紀に生き残れるか」「アリストテレスの快楽論」として纏めた。 平成8年度には、エネルゲイアを支えるヘクシスの成立についてのアリストテレスの目的論的分析は、公式には進化論的な歴史性への言及を許さないが、歴史性と矛盾するものではないことを論じ、「折り畳まれた進化」論として再構成できるのではないかという見通しをえ、その一部を「アリストテレスの友愛論」として纏めた。 最終年度である平成9年には、研究成果報告書を作成し、その中で、行為におけるヘクシス概念の分析を進め「完成としての「性向」」、また「折り畳まれた進化」の場としての共同体について考察し「「共同体」と正義」として纏めた。さらに、この過程で、ヘクシス概念の解明には「心の哲学」におけるヘクシス概念の明確化が必要であることが明らかとなったので、新たな研究課題として、心の哲学におけるエネルゲイア概念についての研究補助金の申請を行った。
|