所期の課題に関わる最近の研究は、欧米を中心として、予期した以上に盛んになされていることに、改めて気づかされ、初年度においては、それらを可能な限りにおいて広範にフォローし、国際的な研究状況を把握することに努めた。同時に、プルタルコス、アルビノス、ヘルメイアスなどの古代ギリシア哲学者による「対話篇」についての受けとめ方、および近代におけるシュライエルマッハ-、ツェラ-らの見解の再評価からも学ぶ点が少なくなかった。問題は、一面において、懐疑主義的プラトン理解(たとえばPh.Merlan)やJ.Cramerらによる「書かれざる教説」の強調に対する対処とも連動し、これらについても一定の取り組みが必要となった。 この過程での成果を踏まえて、まず平成8年3月に古代哲学研究会において、「プラトンの対話篇構造の意味するもの」についての口頭発表を行い、そのさいの討論を通じて多くの更なる示唆を与えられた。『哲学研究』(京都哲学会刊)第562号に発表の論文は、こうした経過を経て纏められたものである。これについては、さらに続稿の執筆を現在継続中であり、「想起説」の導入を経てイデア論および後期のディアレクティケ-の発展に至る展望を試みつつある。またこの間に刊行された編著書『フィロソフィアの源流と伝統』においては、ソフィスト思想およびプラトンを扱った2つの章の執筆をも担当し、特にプラトンについて新視点の導入を図るなど、所掲課題の遂行との関連においても得るところが多かった。
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