本研究は、十七世紀から十八世紀にかけてのヨーロッパ近代思想の中心的な流れを、近代科学の形成と展開を機軸としたキリスト教哲学から世俗的自然主義への移行として捉えて、その一応の達成の表現である啓豪思想の代表の一人として『一般および個別自然誌』の著者ビュフォンを位置づけ、十八世紀のビュフォンの自然誌に合流する科学思想と哲学思想の流れを十七世紀から辿ることを試みた。 ヨーロッパ思想のキリスト教的基盤の解体作業は、十七世紀のスピノザによる汎神論的自然主義に立った聖書批判ならびに新たな倫理学や政治学の構築の試み、あるいは、十八世紀のヒュームの実験的推論方法に基づく経験論的自然主義に立った認識批判や宗教論、に求められる。しかし、ビュフォンは人類史を自然史に包含するほどに完結の度を高めた自然主義的世界像を、広範な自然誌研究に依拠しながら描き出すことによって、神-自然-人間の系列秩序から自然-歴史-人間の系列秩序のパスペクティヴへと転換させるのに大きく寄与したのであって、本研究はこのような西欧近代の思潮の動態を、一次資料に基づいた実証的研究によって明らかにすることができた。
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