1.本年度の研究計画に従って、テーマに関する文献を収集してそれらを検討する(一部についてはデータベース化した)と同時に、そうした検討にもとづきつつ昨年度に引き続いてカントのテクスト分析を行った(具体的には、『純粋理性批判』『道徳の形而上学』『宗教論』『学部の争い』など)。このテクスト分析によって「内」の最も重要な問題として「人格」の問題を析出してその理論的意義と実践的意義を考察した。その結果、カントにおいては「人格」の成立が相互人格的な問題構制を前提としたものではないことおよび「嘘」が人格の自明性を破壊するという意味で「悪」のパラダイムであることなどが明らかになった。また、「外」の問題としては『宗教論』や『学部の争い』などのテクスト分析を通してカントの大学論の意義を考察した。その結果、「大学」を「公論の空間」として理解することが可能であることが明らかとなった。これらの論点については『研究報告書』において詳しく論述した。 2.1.においては指摘した「人格」の問題はカントの「他者論」を考察する上で重要な意味を持つ。カントには「他者論」がないとよく言われるが、そのことの両義的意味が今回の研究においてカントのテクスト分析を通してはじめて確認できたことの意味はきわめて大きいと判断される。3年間の研究を通してえられたこの新たな知見はドレスデン工科大学のゲアハルト・シェーンリッヒ教授の討議倫理学批判に論理に呼応するものとして今後のも引き続き考察して展開してゆきたいと考えている。
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