1.本年度は三カ年にわたる本研究の最終年度であるので、これまでに収集できなかった研究文献の調査・収集を急ぐと同時に、それらのうち重要な文献についてはこれまでに整備したパソコン環境を使ってデータ・ベース化しながら、カントのテクスト分析に利用した。 2.収集した現代哲学関係の文献の中ではフランクフルト学派のアクセル・ホネットの「相互主観性理論」=「相互承認論」が最も興味深くかつ重要と思われたので、その論点を批判的に解析して「相互承認論」の構造的特徴とその問題点を整理した。ホネットの承認論は、「《他者による承認》にもとづいて人格のアンデンティティーが確立されること」と「《承認》をめぐる闘争」といった両義的な議論として特徴づけることができる。というのも、後者の論点にしたがえば、《他者による承認》以前に《他者による承認》をもとめて闘争する人格的主体がすでに立ち上がっていなければならないからである。こうした問題意識のもとでカントのテクストを分析した結果、カントが『道徳形而上学の基礎づけ』『実践理性批判』などのテクストにおいて「人格」としてテーマ化している問題がきわめてユニークな意味を持つことがわかり、そのことを通してカントの「内」という概念に新しい分析を加える可能性が示された。 3.また、カントの『学部の争い』の議論をハ-バマスなどのコミュニケーション理論と重ねて読み解くことを通して、カントの構想する「大学空間」をハ-バマスなどによって展開されてきた「批判的公共性」の具体的空間として位置づけることが可能となり、このことによってカントの「外」という概念に新しい分析を加える可能性が示されたといえる。
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