平成7年度における科学研究補助金による資料調査は都合6回行った。その中でも重要なものは、秋田県鷹巣町綴子八幡神社の内館文庫に所蔵される膨大な資料群の中に見出される、修験道関係の切紙資料で、単に修験の伝承にとどまらず、禅宗と共通する内容のもの、禅宗との交渉のなかで禅宗から取り込まれたものなどをはじめとして、多くの伝承資料を収集することができた。これらの資料録はほぼ整理が終了し、目録作成にかかっており、まず仏教や禅宗関係の典籍目録を近日中に刊行の予定で、引き続き修験道関係の相伝資料の目録作成にかかりたい。 また禅宗の中でも、五山禅林と主に地方に展開した曹洞宗との関係も以外と密接なものがあり、たとえば切紙が伝える曹洞宗の得度儀礼は、臨済宗燈派所伝の『得度儀軌』と共通するところが多く、こうした交流を通して曹洞宗の授戒に関する儀軌も整い、中世に盛行する授戒会興行の基盤が形成されたと考えられる。 さらに、曹洞宗所伝の切紙資料整理の過程で発見できたことの一つに、中世の陰陽道をも取り込んで漸次新しい切紙資料が作成追加されていった様子が窺えることで、その一端を「中世禅宗と陰陽道」と題する論文にまとめることができた。 切紙資料の全体像も漸く見えてきたと思われるので、次年度では分類項目にしたがって検討し直し、「切紙分類目録」の完成を目指す。また、中世宗教史研究の成果を踏まえながら比較検討し、特に中世の社会的な身分観念(卑賎観・触穢観・不浄観)に基づく社会階層観の形成や、共同体におけるタブ-などの成立と仏教がどのように関わったかをまとめたい。
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