本研究は平成7年度から8年度までの2カ年にわたって、科学研究費の助成を受けたものである。その課題は「大乗仏伝経典ラリタヴィスタラの本文校訂と和訳、及びそれに伴う思想的問題の研究」にあったが、前年度(平成7年度)において、第15章以降に関して、梵文写本11本の原文をチベット訳と漢文訳とを参照しながら校合し、異読表(ヴァリアントリスト)を作成する、という基礎作業に従事した。それにもとづき、今年度(平成8年度)は、まず第15章の本文校訂と和訳を完成することに没頭した。第15章「出家品」はかなり長編(筆者の使用する1冊30枚のノートで12冊に及ぶ)であるが、この部分についてはすでに手書きノートは完成した。現在、第16章以下の部分についての本文校訂と和訳の作業を進行中である。第15章についての研究成果は、本学の紀要『鹿児島経大論集』に順次発表中であるが、その中には、本文校訂(第二部)と和訳(第三部)のみならず、「大乗仏教の重要な思想的テーマ」についての考察を加えている(各論稿の第一部として記載)。それというのも、大乗仏教の研究には、文献学的な研究・写本読解の作業のみならず、思想的な考察も重要だからである。そのような観点から、ギリシアとインドの思想を比較対照し「霊魂観」の問題を検討する論文も発表した。なお、東京(国際仏教学大学院大学)でのセミナーへの参加・情報交換がきっかけとなって、従来、筆者のパソコンワープロ(マッキントッシュ、ノ-ミンフォント)では書くことのできなかった特殊なサンスクリット文字のローマナイズが可能になったので、今後の梵文印刷作業の簡易化に大いに役立てたい。
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