この三年間の研究成果を概括してみると、(1)自分の「総合人間学の体系構想」が以前よりもいっそう確信をもって確定してきたこと(拙著『逆説のニヒリズム』1994年刊に続いて『続 逆説のニヒリズム』を刊行予定)、(2)議論の肉付けとして新たに、精神分析、フランス・ポストモダン思想、等の領域をカヴァーするようになったこと、(3)これまでほぼ文学、音楽に限定されていた芸術面での素材としてこの間新たに映画を加えることができたこと(ただし科研費補助金を当てたわけではない)、(4)構想の後半を「成果報告書」として印刷し知人友人に批判してもらう用意ができたこと、の四点であろう。 当初の「研究計画調書」に書いた「研究目的」「特色・独創点と意義」に陳べた四点に沿って振り返ってみる。(a)哲学的人間論と自然科学との接合については、論理の緻密さの点でさらに工夫の余地はあるが、基本的にはやり遂げた。(b)ニヒリズムとヒューマニズムとの接合については、本構想における一番の難所である。両者をイ-ジ-に結びつけることは何としても避けたいのであるが、問題は如何に議論に説得性を持たせるかである。今後に亘って長期的課題である。(c)自己実現と疎外との接合については、基本的には議論は組み立ておわった。あとはどう立体化、豊富可するかである。(d)自由と宗教との接合および宗教と無神論との接合については、前者は比較的解明できたと思う。後者については客観的に見るとまだ珍説の域を出ていないようなので、今後一層考察を深め議論をより緻密にしていきたい。 他に残された課題としては、歴史学の地検と疎外論の接合、社会人類学からの知見の整理と体系への組み込み、現象学による人間論の一層の摂取、等である。
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