本研究は、ロシアの初期協同組合運動に指導的な影響を与えた三人のインテリゲンツィアの生涯と思想に関する研究によって、帝政時代のロシアにおける協同組合運動の民族的特性と国際性の両面を明らかにする社会思想的研究である。 チェルヌイシェフスキーの研究では、彼の編集する雑誌『ソヴレメンニク』の1859年第一号のロバート・オウエンの社会改革論に続いて、1860年4月号の紙面にイギリスのロッチデイル先駆者公正協同組合についてのかなり詳細な解説論文が掲載されたことが確認された。チェルヌイシェフスキーらの急進改革派がこの段階で農奴制廃止後ロシアの改革にオウエンの思想やロッチデイル型の協同組合の導入を考えていたことが一層明らかになった。 バーリンの研究では、彼が1869年8月12日にロッチデイルの先駆者協同組合の売店を訪ねて訪問者名簿に記帳していたことを現地で確認できた。さらに、マンチェスターの協同組合本部のアルヒ-フで、彼がニールらイギリスの協同組合運動の指導者たちと交わした手紙や報告書を見つけた。それらの資料で、バーリンがロシアの協同組合運動の発足のためにイギリスの協同組合からの物心両面の援助を要請すると共に、国際協同組合組織の創設の必要を熱心に説き、ニールたちの指導を促したことも資料的に明らかにできた。今後は、さらにA.ヴァシリチコフの協同組合思想の研究に取りかかる予定である。
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