本研究はロシアの初期協同組合運動に指導的な影響を与えた三人の先駆的インテリゲンツィヤたちの社会的活動と思想とその国際的な背景の研究を通じてロシアの初期協同組合運動の特色を明らかにすること、およびその後のロシアにおける協同組合運動の発展と挫折の経過を社会思想史的に研究することを目指している。 N.G.チェルヌィシェフスキーの協同組合思想については、本研究では彼の編集していた雑誌『ソヴレメンニク』の1860年4月号にすでにロッチデイル先駆者公正組合についての詳細な記事が掲載されていたことを紹介して、彼らがロッチデイルの組合の実績に注目して、ロシアの後進的状況の下で協同組合を普及させるために民衆教育と社会的対策の必要を挙げていること、それが後のチェルヌィシェフスキーの小説『何をなすべきか』の中での青年インテリゲンツィヤへの呼びかけにつながっていることを指摘した。第二の先駆者としては、ウクライナのハリコフで消費組合運動に献身したニコライ・バーリンが、1869年の訪欧で最も感銘を受けたイギリスの協同組合運動と彼の協同組合思想との関係、およびイギリスの協同組合指導者たちへの彼の国際協同組合連絡機関の創設の要請についての史実を明らかにした。第三の先駆者、A.I.ヴァシリチコフに関しては、彼が1872年にロシア自由経済協会で行った民衆貸付組合に関する講演を分析して、彼のロシア農村信用組合論がドイツのシュリツェ=デ-リチェの思想的影響とル-ギニン兄弟の実践に基づきながら、ロシアの農村の後進的特殊状況を配慮して、個人としてのインテリゲンツィヤの協力や地方自治体(ゼムストヴァ)と政府の援助を要請する内容のものであったことを明らかにした。その後のロシアおよびソビエトの協同組合運動の社会思想史的研究の成果も学会や講演会及び論文などで発表した。
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