平成8年度は、平成7年度に収集された文献の原典読解を継続し、試訳をつくり、ノートづくりをすすめ、主要に扱うべき著作家を定めることが目標であった。この過程で、収集可能だった文献からも、また当初からの目標に沿う意味からも、サン・ヴィクトール学派を研究の中心に置くことが定まった。サン・ヴィクトールのフ-ゴ-とリカルドゥスを縦の線の中心に置き、同時代の他の神学者たちとして、ソ-ルズベリのヨハンネスやクレルヴォ-のベルナルドゥスをも視野に入れることにする。 平成8年度には、研究の基礎を固める意味で、サン・ヴィクトール学派の創始者とされるフ-ゴ-について、特に彼における神学と哲学の基本的な関係を考察した。この成果はまだ雑誌論文等にはなっていないが、平成9年3月18日のキリスト教学会九州部会で、「サン・ヴィクトールのフ-ゴ-『ディダスカリコン』における神学の位置」と題して、口頭発表された。この内容は、いずれ研究紀要等に発表の予定である。 また、12世紀における社会的・思想的な大変化全体を視野に入れた研究としては、平成8年11月16日に、福岡の西南学院大学市民大学講座で、「中世の結婚」と題して講演をした。これは、12世紀ルネサンスにおける「個人の成立」と呼ぶべき出来事を、「結婚」matrimoniumをめぐる教会と世俗の対立・闘いと関連させて論じたものである。これは厳密な実証的研究とは言いがたいが、その時代についての私の基本的な見解をまとめるのに役立った。 平成9年度には、サン・ヴィクトール学派についての研究を更に前進させる予定である。
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