今年度の実績としては、作品・資料の調査が中心であった。作品調査に関しては、岡山県立美術館・王舎城美術宝物館における関連作品調査(平成7年10月)、京都・仏光寺所蔵作品の調査(平成7年12月)名古屋市博物館・徳川美術館調査(平成8年1月)が主なものである。これらの作品調査により、従来全巻通してカラー図版化されることがなかったためにその全貌を知り得なかった室町時代の縁起絵巻および祖師絵伝5点について、実現するとともに全巻のカラー写真を入手することができた。これらの作品については次年度以降にかけて詞書と絵画の関係について詳細に検討してゆく予定である。また、関連資料としては、本課題において中心的に扱う予定の京都・清涼寺蔵釈迦堂縁起について、平成7年5月に清涼寺において、同寺所蔵の出開帳三十冊の調査を行った。同寺の江戸時代における出開帳の調査はこれまでまったく行われていなかったが、現在解読中である今回の調査資料の解明により、釈迦堂縁起が江戸時代に出開帳という場でどのような宗教的機能を狙っていたかということが明らかになると考えられる。縁起絵巻が「絵解」という行為の中で、その内容を鑑賞者に積極的に伝えるものであるとすれば、寺での本尊の開帳や地方での出開帳の際に、その本尊の由来を伝える縁起絵巻の果たす役割は大きい。現在確認できている出開帳資料は江戸時代以降のものだが、寺社資料を詳細に検討してゆくことにより絵巻制作当時の状況が解明できる可能性もある。従来様式論・筆者論だけに終始していた縁起絵巻の機能面が明らかになることにより、絵巻制作の状況に関しても新しい知見を得ることができると考えられる。また、上記名古屋市博物館での調査では、江戸時代の後期に名古屋で行われた清涼寺の出開帳の情景を絵画化した記録も併せて調査・撮影しており、これも釈迦堂縁起研究の重要な資料となる。
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