本研究の目的は、室町時代後半に数多く制作された縁起絵巻が、その時代において、どのような宗教的機能を果たしていたか、という問題を考察することにあった。その際、絵画作品としての表現様式や構図が、その機能とどのようにかかわっていたか、という点を重点的に考察した。 研究成果の第一点は、画面構成・詞書の分析から、狩野元信が描いた釈迦堂縁起が釈迦堂の本尊・釈迦如来像と密接な関係のもとに制作された可能性が高い、ということを指摘した点である。とくに、江戸時代の記録類の考察を踏まえて、釈迦堂縁起が、本尊の開帳に際してその由来を絵解きする、という機能を果たしていたということについても言及した。この点については、平成9年5月31日の美学会西部会研究発表会において口頭発表をした(口頭発表の原稿については報告書に所収した)。 また、縁起絵巻が、室町時代以前にどのような役割を果たしていたかを考えるために、平安時代末期に制作された現存最古の縁起絵巻である信貴山縁起について考察した。その結果、従来、縁起絵巻説と鑑賞絵巻説があった信貴山縁起は、その画面構成、詞書などの分析により、縁起絵巻としての性格が強いものであるという結論に達した(この内容については、『人文』45号に「縁起としての信貴山縁起絵巻」として論文発表し、報告書に所収した)。これが、研究成果の第二点である。また、数多く制作された北野天神の縁起についても、その現存最古の作例である承久本のあり方について考察した。
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