1.本研究の課題「シャフツベリと近代美学の成立との関係」は、その内容の広がりからみて、従来のシャフツベリ研究の成果を継承しつつ、併行して今日の欧米人研究者との交流と協力が不可欠である。この点に関する、平成7年度の成果は次のようなものである。 (1)カ-ル・ハインツ・シュワ-ベ教授(ドイツ、ライプツィヒ)より、シャフツベリを含む英国近代美学の独訳文献一覧の提供を受け、さらに、同教授より恵贈された、ヘルティ(L.H.Holty)とベンツラ-(J.L.Benzler)の共訳になるシャフツベリ独語訳初版の再版書は、同教授による解説と注釈も加わって、ドイツ啓蒙期におけるシャフツベリ受容の一側面を示唆してくれた。 (2)ホルヘ・アレギ教授(スペイン・マドリッド)と彼の学生パブロ・パルトル氏から提供された、両氏の共編になる文献一覧「17世紀・18世紀におけるスペインと英国美学との関係に関する文献」は、その周到さによりきわめて有益であった。同じく両氏の共著論文「シャフツベリ:近代美学の父、あるいは批判者?」も、問題関心を共有する研究成果として示唆的であった。 2.調査・研究の今年度の成果としては次の3点がある。 (1)シャフツベリの思想の展開としてスコットランドにおける様相(大陸思想へと媒介した可能性が考えられる)を研究したジョージ・ターンバル論を完成し、発表した。 (2)カッシーラーによるシャフツベリ論を再読することにより(『啓蒙主義の哲学』、『自由と形式』、「シャフツベリと英国におけるプラトン主義ルネサンス」、他)、ドイツ啓蒙思想研究からのシャフツベリ理解の方向が示唆された。 (3)「狂信論」の研究を進行させることにより、当事のカルト的宗教の実態とそれをめぐる論争を追跡し、シャフツベリの宗教観や道徳・美学への基本的立場を確認できた。
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