1.図版資料の作成に関しては、現地調査において撮影した35ミリ・カラースライドをプリントし窓ごとに整理するという作業をほぼ完了した。ただし、重要な部分を拡大してデュプリケイトするという作業は来年度に行なう予定である。 2.今年度は、《放蕩息子の譬え話》を描く窓を中心に取り上げ、譬え話の物語表現に関する考察を行ない、論文を執筆した。その成果は、今年秋に刊行される予定である。そこでは以下のような項目に関して分析を行なった。(1)譬え話とその視覚的表現:譬え話という比喩としての物語がキリスト教の宗教的実践の中でどのような役割を果していたかを考え、13世紀以降西欧において活発に用いられた「例話」との関連性を探った。また、譬え話の映像化において寓意的内容の伝達と認識を有効に行なうために実際にどのような手続きがとられたのかという問題を考え、2種類の解決法について言及し、「広い意味でのタイポロジー」という発想法との関連性を示唆した。(2)シャルトル大聖堂《放蕩息子の譬え話》の窓:この窓について、分節システムと幾何学的構成が譬え話の物語叙述と寓意的内容の伝達や認識果たす役割を、場面の配分:幾何学パターンとの関係、中央軸線上の場面といった点を中心に分析した。(3)場面間の対応関係:この窓で上下に繰り返される幾何学パターンの同じ位置に配される複数の場面間に対比的関係が明確に意図されていることを、場面6・15・24、場面8・17・26、場面2・11・20などの場面の組み合わせを例として明らかにした。 3.上記の考察と並行し、ステンド・グラスの幾何学的構成と分析システムに関する考察をさらに発展させた。 4.譬え話との関連性が想定される聖人伝の一例として《聖レオビヌス伝》の窓に関する研究を萌芽的状態ではあるが行ない、その成果を刊行した。 5.《よきマリア人の譬え話》窓に関する考察の準備を進行させた。
|