今年度も前年度に引き続き、北海道余市町のフゴッペ洞窟の現場で作品を実地に調査した上で写真を撮影し、また札幌市の北海道開拓記念館所蔵の石膏型の記録を取った。新たに北海道開拓記念館に未整理のまま所蔵されている「刻画のある岩石片(オリジナル)」も見ることができ、これでほぼ全資料を網羅的に記録することになった。現在はこれらの資料をデジタル化して互いに照合しやすいようにする作業中で、その結果作品画像を確定することになるが、そのためには前年度からの課題である、石膏型の美術資料としての評価が重要である。石膏型が示す1951年の発掘当初の形態をとるか、あるいは1970年の保護建設時までに相当程度風化している現状を是認するか、2種類の異なった資料を有するフゴッペ洞窟・岩面刻面ならではの問題である。 本研究の主目的であるフゴッペ洞窟・岩面刻画の制作年代決定に関しては、まだ確定的な結論に達していないが、従来から出土土器により考古学的に主張されている「続縄文時代後半(紀元後300年〜400年)」が現在のところ最も有力な仮説であることは認めざるを得ない。その根拠としては、石膏型やオリジナルの刻画のある岩石片にきわめてシャープな制作痕が見いだされ、金属器の使用を想定することが妥当だからである。ただし、刻画制作の伝統も、その制作道具も日本海の対岸からもたらされた可能性も残されており、本研究の最終年度である来年度は、画像の確定とともに、さらに制作状況の検討を行わなければならない。
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