「画論」の翻訳 平成8年8月、木戸がアテネでフィロロジストのアガメムノン氏のもとで「画論」の翻訳を行った(渡航費は別途予算)。翻訳はすでに木戸を中心に独自に進めていたが、18世紀の書でありながら、文人というよりは祖国独立に生涯を捧げた「行動の人」ドクサラスの文体は、文法的に誤りがきわめて多く、ギリシア人にとっても現代語に移すことは困難であることが今回分かったので、今後、我々の日本語訳は、「画論」第四章の絵画技法の部分に力点を置き、その他の章は抄訳することとした。しかし、ドクサラスを近代ギリア絵画の父とされるアテネ大学の美術史家ツィアス教授は、我々のドクサラスへの着眼を驚きをもって評価されたばかりでなく、ドクサラスをディオニシオスとの対比で取り上げることにも大いに賛同された。 ドクサラスほかの作品調査 平成8年10月ディオニシオス学会に木戸と上田が出席し発表したが(開催地カルペニシオ、渡航費別途予算)、この機会をとらえて、前年に引き続きドクサラスとマドンネリの作についてアテネ(国立近代美術館、ビザンティン美術館)、ローマ(ヴァチカン、ピナコテ-カ)、ヴィネツィア(ギリシア研究所ほか)で調査し、またディオニシオスの絵画をフルナにたずね、10月の学会報告は金沢美術工芸大学美術工芸研究所「研究所報」no.9(、平成9年3月)に掲載した。 ドクサラスの模写 ドクサラスのパトロンであるシューレンブルク伯爵の肖像(油彩画、アテネ近代美術館所蔵)を模写し、イタリア風の絵画技法がいかに近代ギリシア人に咀嚼されたかを中心に検討した。模写は、寺田の指導により本学大学院生(油絵専攻)が担当した。
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