本研究は人や動物の高活動性行動の観察を通して情動喚起の基礎的な仕組みを見ていこうとした。基本的アプローチは2つあった。一つは、痛み関連行動への実験的アプローチであり、他は日常生活場面で生じる高活動の性質を探求するものであった。研究期間を通して次のような結果を得た。 1.正常血圧ラットに比較的長期にわたりナトリウム分の多い餌を与えつづけても、高血圧は生じなかった。自然発症高血圧ラット(SHR)の高血圧が生来的要因の影響を強く受けることを確認した。 2.オピオイド系活動を調べるのにSHRを用いた。まず、このラットが高い痛反応閾を示すこと、そしてさらに、多動が発現することを認めた。 3.接触型熱刺激提示装置を用いて、痛反応閾下での感覚強度と感情強度とを調べた。感覚量は刺激強度の関数として増大した。感情評定はこれと異なり痛反応閾近傍で負方向へ変化することが判明した。 4.人間の日常活動場面での高活動性行動の発現を観察し、約2時間周期の活動の高まりを観察した。 5.SHRで主として、ヒドララジンを適用した場合、血圧と一般活動量が有意に低下することを明らかにした。ところが、痛反応閾は逆に上昇した。これは心拍と相関するらしいことが推定できた。 6.瞬目活動が活性化する条件の分析を行った。明所条件、心的負荷条件が活性化効果を有することが明らかになった。 7.作用機序の異なる抗高血圧薬を用いた研究から、循環器系活動が直接的に活動水準を規定しているわけではないものの、一つの重要な要因となっていることを観察できた。 8.多動に関する動物研究の成果を踏まえながら、高活動傾向者をとらえる質問紙検査を考案し、高活動傾向者の行動特徴をある程度まで明らかにすることができた。 今後は、高活動行動発現の基礎的仕組みに一層の検討を加えるだけでなく、それがさまざまな情動現象の説明にどの程度まで適用可能であるのかについても、さらに詳細な検討を加えたい。
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