研究概要 |
近年,睡眠覚醒リズムを環境の24時間周期に同調させることが出来ず,重大な社会不適応をきたす症例「睡眠相後退症候群」「非24時間睡眠覚醒症候群」が世界中で数多く報告されるようになった。これらの中にはいわゆる登校拒否症の一部や季節性感情障害(冬季鬱病)なども含まれる。睡眠・覚醒リズム位相の固体差に対する遺伝・環境要因の影響に関しては,ラットでの養子法による研究と,ごく最近になってヒトのコルチゾールリズムや血圧リズムを24時間記録して双生児法により検討した研究がLinkowskiら(1993,1994)によって行われているが,ヒトの睡眠・覚醒リズムを長時間連続記録し睡眠・覚醒リズムの位相や振幅における固体差に対する遺伝・環境要因の関与について検討した研究は皆無である。そこで,本研究は双生児法を用いて睡眠・覚醒リズム位相の固体差に及ぼす遺伝・環境要因の関与を明らかにすることを目的とした。方法としては、思春期以降の双生児を被験者として、朝型夜型質問紙(M-E Questionnaire)、睡眠表(Sleep Log)、mini motion logger actigraph(加速度センサーと記憶素子を内蔵し連続的に活動量を長期間にわたって記録することが出来る超小型の活動量記録装置)を用いて睡眠覚醒リズムの記録等を行った。その結果、5組の男子双生児対のうち2組が2卵性、3組が1卵性と判定され、遺伝率の算出には例数が不十分であるので断定的なことは言えないが、朝型夜型質問紙から推定した生体リズムの位相に関しては、1卵性双生児対同士の類似性と2卵性双生児対同士のそれとの間に殆ど差は認められず、遺伝要因よりも環境要因の関与の大きさを示唆する結果が得られた。
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