本年度では、P300に関する認知文脈の更新仮説と順応水準仮説との理論的な統合を、実験結果を総括しながら行った。(1)認知文脈の更新仮説では、内的なモデルが、どのような仕組みで維持されているのか、さらには、それがどのような場合に更新されていくのかという点については、P300の測定によって裏付けられている。しかし、その認知文脈なるものがどのような機能を持っているのか、具体的にどのようなものであるのかは明らかにはされていない。反対に、(2)順応水準仮説は、知覚に関する機能的な理論であり、順応水準がどのようなものであるのかは具体的な指摘がなされている。ところが、順応水準といわれる内的なモデルが、どのような仕組、あるいは心理的な働きで維持されているのか、更新されていくのかに関しては、今までまったく考えられていなかった。 上記のように両者を合わせると、両者の不得意な面を互いに補うことができ、心理機能に対して総合的な理解が可能になることが本研究で明らかとなった。また、これら二者に加えて、処理資源仮説/作動記憶仮説を導入し、認知文脈/順応水準が、作動記憶内に形成され、維持されていることを裏付ける実験的証拠を、P300の測定によって明らかにした。人が何らかの課題をしている場合には、その課題の対象となっている次元(例えば、視覚刺激の大小などの順応関係)上に、順応水準/認知モデルを、反応の効率化のために形成しており、それは、入力刺激との一致度に反比例する形で、更新されながら、作動記憶上に維持され続けるというのが、本研究の理論的な結論である。そして、この内容を成果報告書として公にした。
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