本研究の目的は、言語、特に語彙アクセス過程におけるワーキングメモリの個人差を、脳の生理学的基礎データから測定しようとするものである。そこで、本研究では、先行単語によるプライミング効果の大きさを、ワーキングメモリの個人差の視点から分析する。ワーキングメモリ容量の大きい被験者では、知識として貯蔵されている情報を参照することが効率よく行なわれるため、必要な情報を選択して不必要な情報を抑制することが瞬時に並列的に行なわれると考えられる。そのため、語彙アクセスはより短い時間で行なわれる。このような語彙アクセスの過程の脳内メカニズムを探索するため、語彙アクセスと同期した事象関連電位の測定を行なう。 平成7年度は、言語の情報処理と関わるワーキングメモリの容量の個人差を測定するため、リーディングスパンテストの作成を行なった。ここでは、大学生を対象としてリーディングスパンテストを実施して、さらに、記憶範囲テストの測定を行なった。 上記のテストを受けた被験者に対して、単語の語彙アクセスに同期した事象関連電位N400の測定を行なった。単語の語彙アクセス過程は、プライミング実験の手法を用いた。 そこでは、二つの単語間で意味的に関連する条件と、意味的に関連しない条件とについて反応時間を測定すると同時に、事象関連電位をそれぞれの条件ごとに測定した。事象関連電位の測定は、プライムが先行して与えられた後の二番目の刺激に同期して測定された。この結果、意味的関連条件に比較して、意味的非関連条件では刺激提示後の350ms-450msの潜時に負方向に電位の増加が認められた。しかし、この負方向の電位の大きさは被験者により差が認められた。電位の増加はリーディング・スパン・テストの測定結果から、リーディングスパンが4.0以上の高スパンの被験者に増大する傾向があった。
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