1.テクスチャーの消失と再現過程の分析については、種々のテクスチャーパターンを様々な偏心度で提示し消失までの時間を測定した。偏心度の増加に比例して消失時間は短くなったが、ランダムドットのテクスチャーより、線分テクストンからなるテクスチャーのほうが偏心度の影響を受けにくかった。持続的注視により消失した領域には、外領域と同じ要素が補充されるように知覚されるが、これには、領域の境界を処理する系(BCSと領域内の特徴を処理する系(FCS)を仮定するGrossbergの理論が適用できる見通しがえられた。 2.漢字パターンのゲシュタルト崩壊と回復を規定する要因の分析では、ある漢字パターンを持続的注視(約25秒程度)させた後、それと同一構造をもつ漢字パターン、同一部分をもつもの、異構造・異部分をもつものを認知するまでの反応時間を測定し、短時間注視の場合との比較を行った。持続的注視後には、同一漢字のみならず、同一構造をもつ漢字にも認知時間の遅延がみられ、その効果は、注視後、15秒以内持続した。漢字の大きさや傾き、字体などを変化させ、同様な実験を行えば、漢字が脳内でどのように表現されているかについて、重要な示唆がもたらされるものと期待できる。この研究成果の一部は「心理学研究」誌に掲載予定である。 3.顔パターンの持続的注視が表現認知にあたえる影響の分析については、例えば、笑い顔を持続的注視した後、中性顔や悲しみ顔を見た場合のように、順応パターンやテストパターンの表情を様々に変化させ、表情の認知時間を測定した。特に、快・不快次元に関連のある表情を持続的注視した後で、認知時間に遅延がみられた。表情認知を司る系には、主に快・不快次元に関わる表情処理系と、主に覚醒・鎮静次元に関わる表情処理系があり、もっぱら前者の処理系においてだけ、持続的注視による順応効果があらわれると想定することができた。
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