本研究では、持続的注視により、パターン認知にどのような機能低下がどのような要因によりもたらされるか、また回復を促進する要因は何かについて、心理物理実験による精密な分析を行った。 1.持続的注視によるテクスチャーの消失と再現過程の分析については、種々のテクスチャーパターンを様々な偏心度で提示し、消失までの時間を測定した。偏心度の増加に比例して消失時間は短くなった。消失した領域には、外領域と同じ要素が補充されるが、これには、領域の境界を処理する系(BCS)と領域内の特徴を処理する系(FCS)を仮定するGrossbergの理論が適用できる見通しがえられた。 2.漢字パターンのゲシュタルト崩壊と回復を規定する要因の分析では、持続的注視後には、同一漢字のみならず、同一構造をもつ漢字にも認知時間の遅延がみられ、その効果は、注視後、15秒以上持続した。漢字の大きさや傾きなどを変化させ、同様な実験を行い、漢字の脳内表現について考察した。この研究成果の一部は「心理学研究」誌に掲載され、「基礎心理学会」誌にも現在投稿中である。 3.顔パターンの持続的注視が表現認知にあたえる影響の分析については、例えば、笑い顔を持続的注視した後、中性顔や悲しみ顔を見た場合のように、順応パターンやテストパターンの表情を様々に変化させ、表現の認知時間を測定した。特に、快・不快次元に関連のある表現を持続的注視した後で、認知時間に遅延がみられた。これらの結果より、表情認知を司る系には、主に快・不快次元に関わる表情処理系と、主に覚醒・鎮静次元に関わる表情処理系があり、もっぱら前者の処理系においてだけ、持続的注視による順応効果があらわれると測定することができた。この知見はATRで開催された国際研究会で発表され、「心理学研究」誌にも投稿中である。
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