本研究の目的は、開眼者の視覚行動空間を拡大する実験的操作を明らかにすることである。申請者は現在まで6名の開眼者と定期的に関わりをもってきた。その中の一人は電車や飛行機などの交通機関を利用して旅行するようになり、その際、当初は触覚系の活動を中心にしてひとつひとつの場所についての認知地図を作成し、その後、その場所について視覚系の活動を通して認知地図を作り換え、そのとき初めて安全かつ円滑に歩くことができるようになる、という経過が示された。 一方、昨年度から新たに始まった3人の開眼者は、先天性白内障で生後数か月でその手術を受けたという点で共通している。彼らについての行動観察と機能形成実験の結果をみると、手術後にその視覚機能を速やかに形成するためには、できるだけ早期に手術をうけることが必要であること、これに加えて、彼らが視覚を使わざるを得ない状況を日常場面で数多く設定することが必要である、ということが示唆された。そして、この3人の開眼者の中の2名は先天性難聴を伴う重複障害児であるが、身体の移動行動に顕著な遅れがみられ、移動行動における聴覚系の活動の役割を新たに探索することが必要であることがわかった。これに加えて、絵を描いたり、積み木を組み立てる手の操作活動を同時に形成していき、その過程と移動行動を形成していく過程を関連させながら実験課題を設定する必要があることがわかった。
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