本研究の目的は、瞬目の視覚的機能の検討ということであったが、瞬目は周期的に暗闇(Blackout)を招来して、視覚情報の遮断を行っていることになり、角膜の乾燥を防ぐこと以外には、人間の行動や情報処理の観点からは決して合目的的な装置とはいいがたい。にもかかわらず、瞬目が存在することによって人間行動に大きな支障があることを指摘する研究は少ない。全体時間の1/3もの時間を暗闇で過ごすにも拘わらず視覚機能としては大きな支障が生じない理由は一体どこにあるのか、つまり瞬目の視覚的機能における視覚的な促進的役割は何かということを明らかにすることが本研究の目的である。 この目的を検討するために、初年度は、まず、瞬目の視覚機能に当たりをつける意味での探索的研究として、(1)暗闇における瞬目の有り様の検討、(2)ズレて印刷された文字を読む際の瞬目の有り様を検討したい、としたが、実験はほぼ計画通り遂行され、目下そのデータ整理に入った段階である。瞬目によって暗闇がもたらされる意味は、視覚が関与しない暗闇における瞬目の振る舞いを検討することから始めることがひとつのヒントになる。視覚障害者(先天盲)でも瞬目が観察できることの不思議さは1928年の英国の生理学者による有名な研究によって指摘されて以来、内因性瞬目の研究者には常識になっているが、その機構はなお不明である。そこで視覚の関与しない定常状態の晴眼者の瞬目率を知るには、暗闇における瞬目率を吟味することが最も基礎的知見になる。もし本当に晴眼者が暗闇においても明所視と同じ瞬目率を示すとしたら、瞬目は本質的に視覚としての機能を果たしていないことになる。それを確かめることが出発点であろう。今までの段階ではどうも差はなさそうなのであるが、その他に、暗闇事態では明所視以上に、注意の方向や心的負荷の影響が極めて明瞭であることが明らかになりつつある。
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