瞬目は視覚情報の遮断を行っていて、人間の行動や情報処理の観点からは決して合目的的な装置とはいいがたい。にもかかわらず、瞬目が存在することによって人間行動に大きな支障があることを指摘する研究は少ない。そこで、本研究では、内因性瞬目の視覚機能とはどういうことかについていくつかの視覚条件を変えて検討した。 本研究の中心的な実験である明・暗所視中の瞬目を比較した3つの実験を通じて見出された結論は、両条件下で瞬目率に著名な差はなく、いずれも「傾向」程度の効果しか得られなかったことである。このことは結局は瞬目のもつ視覚機能というのはいわば「退化」したもので、著名な積極的な視覚的役割を見出すことは困難だという結論になる。これは他の視覚機能を扱った実験でもほぼ同様の傾向が認められ、視覚機能単独で著名な変数になる可能性は比較的低い。また、暗所視実験での瞬目波形の変化を検討した結果、視覚入力の影響は眼瞼の振る舞いそのものに表現される可能性も示唆した。3つの実験で共通に見られたのは、暗所において瞬目はゆっくりとした動きの不完全瞬目の形への移行である。 本実験でのもうひとつの結論は、多くの場合では、視覚的な機能よりも他の純粋に心理学的な要因の方が瞬目に優位に貢献しているということである。特に、外的な情報処理、情報の収集、が終わって、その素材を内的に処理する過程での瞬目の役割は今まで考えられていた以上に大きいという印象が本研究の結論のひとつである。つまり、暗算や連想あるいは課題解決の過程などのある種の内的な心的過程の、例えば「心的負荷」や「課題の困難度」あるいは「作業記憶」の指標としては、その直線性によって、今まで考えられていた以上に多くの心的過程の指標として利用可能である可能性を改めて示唆した。そういう意味でも視覚機能は「退化している」といえる。
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