研究概要 |
平成8年度は,(1)触覚系が刺激凹凸の振幅情報を用いて微細表面粗さ認識を行なっているとする「振幅情報仮説」の妥当性を検討する実験的研究,(2)微細表面粗さ認識の基本的特性を明らかにする実験的研究とその特性をもたらす神経計算システムに関する理論的研究を行なった. (1)については,平成7年度に作成したミクロン単位の精度で段差を提示できる装置を用い,「振幅情報仮説」の妥当性を検証する実験を実施した.触覚系が刺激凹凸の振幅情報を用いて微細表面粗さ弁別を実行しているとすれば,段差弁別閾は微細表面粗さ弁別閾と同程度か,それよりも小さくなるはずである.実験で得られた段差弁別閾は微細表面粗さ弁別閾の半分程度の大きさとなった.これは「振幅情報仮説」を支持する実験結果であった.(2)については,まず微細表面粗さ弁別閾の空間的加重を求める実験を行なった.その結果,明確な空間的加重現象が観察された.以前の実験結果も合わせた考察により,弁別作業に関与する皮膚機械受容単位の絶対数が弁別精度を決定していることが明らかとなった.実験結果に基づいて空間加重現象を説明する神経計算モデルを作成した.次に,微細表面粗さ弁別閾の温度依存性を調べる実験を実施した.実験から,皮膚温度が変化しても微細表面粗さ弁別閾はあまり変化しないことが明らかにされた.閾値の低い(感度の高い)2種類の皮膚機械受容単位FAI,FAIIのうち,FAIの感度は温度変化の影響をあまり受けない.これに対し,FAIIの感度は温度の影響を強く受けて大きく変化する.それ故,微細表面粗さ認識に関与する機械受容単位はFAIである可能性が強いと推定した.
|