集団内コンフリクト状況では、一般に協力志向をもつ個人の存在がコンフリクトの解決を促進する。しかし集団内協力と集団間協力が葛藤する集団間コンフリクト状況(ダブルジレンマ)では、協力志向をもつ個人は集団内協力(すなわち集団間競争)のみに関心を向け逆に集団間コンフリクトの解決を妨げることが、平成7年度の研究で明らかにされた。平成8年度は、この知見をもとに、個人のもつ協力志向についての再解釈を試みた。これまで心理学的な研究では、協力志向をもつ個人は非合理的な協力動機に従っていると解釈されてきた。しかし、協力行動が常に非合理的なわけではない。緊密な相互依存関係にある他者への協力行動は、互恵的関係を構築することで、長期的な自己利益を促進する。このことを考慮すると、協力志向をもつ個人とは他者との相互依存性を強く認識する個人であると解釈できる。そしてその協力志向が集団内に制限されるのも、「相互依存関係は集団内において緊密に張り巡られている」という前提が共有されているからであると考えることができよう。 この協力志向についての新たな仮説を検証するため、以下の実験を実施した。まず全実験参加者を、知覚傾向の差異にもとづいて、二つの集団に分類する。実験参加者は、この集団分類によって内集団成員とされた者と外集団成員とされた者のそれぞれを相手に、一回限りの囚人のジレンマを行う。さらに事後質問紙では、社会一般における相互依存生検の強さにいついての信念を測定した。 事後質問紙で測定された相互依存性認知尺度とジレンマにおける行動選択についての分析から、1)社会一般についての相互認知傾向の高い者ほど、協力的に振る舞い、2)さらに外集団成員と比べ内集団成員に対してより協力する差別的対応をとることが示された。これらの結果は仮説を支持しており、成員の協力志向が集団間コンフリクトの解決を逆に阻害することが示された。
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