目的と方法:本研究は、犯罪心理学の研究で看過の傾向がある犯行者と状況の出会いを生態学的心理学の方法により犯罪発生場面にアプローチするものである。生態学的心理学では物的環境と人間的構成要素を包括した行動セッティング(以下BS)の枠組みにより両者の相互規制関係をとらえようとする。このBSにいる人の行動には一定の行動パターン(定立型)がある。この人間的構成要素の示す定立型とそれに対応する非人間的要素は類似形態的なのである。この不調和にはさまざまな対応、つまり自己制御が行われる。ここではこの観点を犯罪発生場面において実証的に明らかにするために、自転車盗を取り扱った。特に自己制御システムの作動の不整合の状態を観察法による調査を行った。結果と考察:1.駐輪場整備の段階的な展開。(1)自然な自転車の駐輪の段階。(2)駐輪台数の増加に伴い施設との不調和な段階。(3)自転車盗、違法駐輪対策の立案と実施の段階。(4)各種対策が自己制御システムとして十分に機能しない段階。(5)環境整備等効果的な防犯プログラムの作成段階。2.特定駐輪場の経時的調査。規定外自転車駐輪は、整備が行届かない駐輪場や至便性が高い場合にその率が高くなる。利用者の定位的な行動と駐輪場の形態をどう対応させるかが重要となる。3.現段階での想定:BSの類似形態と定立型は犯罪行動においても、生起から終了までの連続体の中の各所に表れる。通常の行動の定立型の可能性は犯罪行動においても同様である。犯罪行動は定立型を装うことでより容易になるが、犯罪行動は全体的にみれば不調和な行動、あるいは定立的な装いをした非定立的行動といえる。BSはこの不調和を自己制御する能動的システムでもある。今後は、さらに特定の自転車置場での自転車盗の発生に関して詳細に検討するとともに、利用者の係わった地域防犯システムの方向に関して、このアプローチの可能性を見てゆく。
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