従来の感情表出の研究では、表情や姿勢等に研究の対象が集中しており、行動レヴェルの反応についての研究は僅少である。また、他者を弁別的に取り扱った試みは、顔の感情表出研究では、友人かあるいは見知らぬ人と同席するかによって表出結果の検討を行ったもの等があるのみである。本研究の特色は、上述のような心理学の分野における感情研究の現況を鑑み、他者を親密度の違いによって弁別的に取扱い、感情反応についての検討を加えるところにあった。具体的な研究は以下のように行われた。親密度の違いにより3種の他者(無縁、知り合い、親しい他者)を分類し他者を弁別的に取り扱い、予備調査において、行動、表出から感情推測が容易な感情を選定した。それらを刺激感情として、当該感情の表出成分および行動成分の推測について心理学的実験研究を実施した。本研究では次のような仮説が設定された。感情が対人場面で表される場合、正の感情にせよ、負の感情にせよ、知合い他者に対してなされる際に、制御される程度が最大であると考えられる。つまり、少なくとも日本人の場合、この関係において相手の受取り方に最も敏感になることが想定されるので、通常相手に不快感を与えるような負の感情の表出のみならず、正の感情もそのまま表出されず、制御される可能性が、知合い他者との関係で最大であると考えられる。逆に、親しい他者に対しては、自己開示が十分可能で、感情の表出の制御が、最小であると考えられる。本研究で行われた実験の結果は、おおむね仮説を支持し、感情のコミュニ-ケーションスタイルに他者との親密度の違いが影響する可能性が示唆された。
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