本研究は、社会道徳的認知の質的に異なる3つの知識領域、つまり道徳、慣習、個人の領域に関する概念の発達を検討した。まず、2歳から6歳までの83名の幼児の保育園内での社会的葛藤が観察された。他者の反応のタイプは、葛藤内容の領域によって異なることが示された。また、幼児は道徳と慣習と自己管理の逸脱行動を概念的に区別することも示された。 次に、158名の児童は道徳、慣習、個人領域での逸脱行動を呈示され、基準判断(重大性、規則随伴性、状況依存性、自己決定性)が求められた。児童は、学年と性に関係なく、各領域に典型的な逸脱行動を区別して判断することが示された。また、児童の性役割概念が領域理論から検討された。児童は、男子が伝統的な女子の役割行動をとる場面を慣習と個人領域の概念を用いて解釈することが示唆された。一方、女子が伝統的な男子の役割行動をとる場面は、個人領域から判断されていた。 最後に、親と教師の領域概念が検討された。192名の幼児の母親は、18種類の幼児の逸脱行動対する教師のかかわり方を評価するように求められた。母親は、幼児の道徳的逸脱と慣習の違反と自己管理の違反に対して、教師の異なったかかわり方を期待していた。70名の教師は、子どもの4種類の逸脱行動を重大性と規則随伴性の基準から判断し、それを理由づけることが求められた。教師は、児童の道徳的逸脱と慣習の逸脱と自由意志による行為を区別して判断し、それらの判断を各領域の特徴から理由づけた。 これらの結果から、領域と対応した社会的文脈の存在、それと対応する領域概念の早期発達、質的に異なる2つ以上の領域概念を用いた多元的な判断が確認された。しかし、児童期以降の子どもにおける領域と社会的文脈との関係、家庭における親子間の葛藤における社会的文脈、自己管理以外の個人領域の行為に関する判断など、今後に残された課題も多い。
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