「素朴生物学」の中核をなす生気論的因果の性質をより明細化することを目的とし、今年度はまず、幼児が持つといわれる素朴生物学のなかで、生気論的な因果的説明が植物と動物の共通性の把握に果たす役割を明かにしようとした。動物だけでなく植物も生存のために食べ物(水を含む)から力や元気のもとをとる。その余剰の活力で成長が生じる。という点で、動物と植物が共通性をもっており、無生物とは異なるという理解を幼児がもっているといえるかを検討するために、実験1では、幼稚園の年中組幼児(5歳児)40名に対し、個別面接で、成長、摂食(水)、病気、呼吸、排泄の属性の付与を動物、植物、無生物に対して求めた。その際、半数の被験者には、属性の機能に関する短い生気論的説明(例えば「食べ物や水から力や元気のもとをとって」成長するという説明)をして文脈を与え、残りの半数には、そうした文脈なしで属性付与を求めた。その結果、文脈を与えられた群は、与えられない群に比べ、動物と植物にその属性を付与し、無生物には付与しないことが見いだされた。短い生気論的説明が与えられることによって幼児の既にもつ生物概念が活性化されることが示唆される。 実験2では、同じく、幼稚園の5歳児40名に対し、個別面接で、動物に観察される生物学的現象(例えば、成長、生殖、呼吸、老死など)を示し、これと類似の現象が植物および無生物にも見られるかを聞き、YESと答えたときにはさらに、どの様な現象が類似しているのかを説明させた。その結果、成長、摂食(水)、老死、に対しては、植物にも動物と類似の現象が見られると答え、無生物には見られないと答えることが明かにされた。 以上の結果から、幼児のもつ素朴生物学が、摂食(水)や成長の理解を中心にして形成されていくらしいことが示唆される。
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