本年度は、これまでの研究のまとめの時期である。これまで幼児が持つといわれる「素朴生物学」の中核をなす生気論的困果の性質をより明細化することを目的として一連の実験をおこなってきたが、最後に、おとなでもある程度生気論的な考えが見られるといえるか否かを調べた。とくに発病の原因として、身体の抵抗力の低下をどの程度重視するか、そこにおける心と身体の相互依存関係をどのように理解しているかを、大学生を対象に、赤痢、風邪、十二指腸潰瘍のそれぞれの発病の原因をたずねるという形式で調べた。 その結果、非感染性の十二指腸潰瘍に対してストレスなどの心理的要因の寄与を認めるだけでなく、かなりの比率の者が、風邪や赤痢のような感染性の病気にも心理的要因の寄与や身体的要因(疲労、寝不足など)の寄与を認める傾向がみられた。発病の原因として細菌が身体のなかに進入することに言及する者は、赤痢、風邪とも約1/4いたが、その半数以上がウイルスと身体の抵抗力との相互作用に言及していた。また、風邪の原因で最も多かったのは、風邪への抵抗力を弱める身体的要因であった。病気の原因として、おとなでも必ずしも細菌説だけを持っているのではなく、バランス説をも持っているらしいこと、心と身体の間にある程度相互依存関係があると信じているらしいことが示唆された。
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