本研究の目的は、集団認知事態でのステレオタイプ反応の生起に感情がどう影響するかを検討することである。研究期間は平成7年度と8年度の2年間である。これまでの研究では、感情が生起するとそれがポジティブであれネガティブであれ、われわれの情報処理容量が費やされるため、認知資源を節約できるステレオタイプ的反応が増大することが指摘されてきた。しかし、ポジティブ感情とネガティブ感情では、主体の活動における機能的意味が異なり、全く同じメカニズムでステレオタイプ反応を引き起こしているとは考えにくい。そこで、ポジティブ感情とネガティブ感情の集団認知における影響過程の相違を明らかにするため、映像刺激を使って、被験者の感情状態を人為的に操作し、特定の社会的カテゴリー集団の特徴について様々な判断を求め、その遂行結果を比較する実験を行うことにした。平成7年度は、次年度実施予定の本実験のための予備的研究を行った。まず、感情操作に用いる映像刺激を市販されているフォトCDから収集し、感情操作に有効なものを予備実験を行い選定した。収集した写真のスライドを大学生30名に呈示し、それらを見たときにどんな気持ちになるかを複数の感情形容詞対尺度を用い評定してもらった。その評定結果を基にポジティブな感情を生起する写真とネガティブな感情を生起する写真、いずれの感情も生起しない写真を選び出した。また、本実験で行う判断課題に用いる刺激材料を作成するための予備調査を行った。実験の被験者となる大学生の間でステレオタイプ的知識の確立されている社会的カテゴリーとして、被験者の在籍する大学の近隣にある大学が適当であると考え、各大学の特徴、イメージを自由記述させた。その資料を参考に判断課題に用いる刺激材料を作成した。本実験では刺激の呈示や反応の測定をコンピュータで行う予定であるので、今後は専用のアプリケーションソフトを使って実験のプログラミング作業に入る。
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